個人事業でいこうかどうか迷っている人に知ってほしい株式会社設立のメリット
これからの事業展開、個人事業でいこうかどうかと迷っているあなたに、株式会社を設立した場合ならではのメリットと検討ポイントをお伝えしていきます。
いずれ法人成りしようと検討している人も、あらかじめメリットだけでなくデメリットも理解していれば、自分一人で悩むことなく専門家を頼りながら前に進んでいけるもの。株式会社とは何か?から始めて、今後に備えて知識を増やしておきましょう。
株式会社とは?
株式会社が、その名称から「株」で成り立っているということは何となく想像できるのではないでしょうか。では、その「株」式であるからこその会社の特徴、すなわち、何を以ってその会社が株式会社であると位置づけることができるのか、知っておきましょう。
株式会社とは
- 法人格がある
- 会社には、経営者や株主とは別人格の「法人格」があり、事業・財産の取得や処分、契約の締結・借入を行います。
- 所有と経営の分離
- 取締役会設置会社の株式会社において、株主は直接経営を行わず、経営者が経営権を持ちます。株主による投票で選ばれた取締役で構成される取締役会が代表取締役を選びます。
- 株主による所有
- 会社を最終的にコントロールする権限は株主にあり、利益が出れば、株式数に応じた配当が分配されます。その反面、損失が出た場合もそのリスクを負担します。
- 出資者の有限責任
- 会社に対する債権者(会社債権者)は、会社の財産に対してのみ債権を行使することができますが、株主(出資者)の財産に対しては行使できません。
- 株式の自由譲渡性
- 株主は、自身が有する株式(出資持分)を自由に譲渡することができます。
自分一人で株式会社は成り立つのか?
「株主の出資」「取締役会」などと聞くと、株式会社は複数人が関係してくるものかと思われるかもしれませんが、株式会社には2種類あり、「発起設立」は発起人一人が全額出資することができますので、自分一人で株式会社を設立・運営することが可能と言えます。また、もう一方の「募集設立」は、発起人一人が一部を出資し、残りの株式を引き受ける者を募集します。
株式会社設立と個人事業主の違い
株式会社を設立する場合と、個人事業主として開業する場合、各種申請・届け出の方法に違いがあります。個人事業に比べて株式会社の方が手続きの内容はより複雑で手間が掛かり、費用もより多く掛かる傾向にあります。次の表で確認してみましょう。
手続きと費用の違い
個人事業主
所在地を管轄する税務署へ、「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出するだけで届け出が完了します。費用は無料です。
株式会社
会社住所を管轄する法務局での会社設立の登記申請が必要です。登記申請には申請書類の他に会社印、資本金の払込証明書、定款などが必要で、費用は約24万円です。
税務の違い
個人事業主
前年度の1月1日から12月31日の1年間の所得税の申告・納税をします。他には、必要に応じて消費税、事業税、住民税を納税します。
株式会社
法人は決算日までの1年間について様々な種類の税金を負担します。税法の改定があればそれに応じてそれぞれ必要な税率に従って計算し、納税します。
年金と保険の違い
個人事業主
国民年金と国民健康保険に加入することが多く、従業員数が5人に満たない場合厚生年金や健康保険の加入は義務付けられていません。
株式会社
厚生年金と協会けんぽ(健康保険)に加入します。全ての役員と従業員の加入が義務付けられています。
株式会社設立のメリット
株式会社設立のメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。これからあなたの始める事業の将来に大きく関わって来る「社会的信用」「節税」「事業継承」の、3つの側面からそのメリットを捉えてみましょう。
社会的信用
あなたの会社経営を軌道に乗せて大きく成長させて行くにためには、たゆまない日々の努力だけではなく、それらを是非サポートしたい!と力を貸してくれる出資者・取引先・人材が不可欠となります。登記が必要で法的制約の多い株式会社は、社会的信用が高いので様々な面で有利です。
資金調達しやすい
株式会社は株主の責任が有限で出資金額を超えて損失を負う事がないので投資しやすく、より多くの投資家から資金を集められます。また、銀行からの融資も受けやすくなります。
取引が成立しやすい
特に取引先が法人の場合、取引相手に一定規模の条件を満たしていることを求める場合も多く、法人口座がないと直接取引に繋がらない事もあるので株式会社である方が有利となります。
人材確保しやすい
株式会社には公告義務があるので公開されている情報も多く、社会保険や年金、退職金などの福利厚生が充実している場合が多いので、より多くの候補となる人材を確保しやすくなります。
節税しやすい
株式会社は個人事業主と比較して経費に算入できるものが多く、課税額を抑える事ができるため、節税しやすいと言えます。
決算日を自由に設定できる
個人事業主の決算日は12月31日と決まっていますが、株式会社の決算日は自由に設定できるので、会社を設立した日の前月末日を決算日にした場合、免税の要件を満たせば会社設立1期目及び2期目の消費税への課税免除期間を最大にすることができます。
欠損金の繰越期間が10年
事業を開始して「赤字」が出た場合、株式会社の場合は10年間、赤字分の翌期以降の繰越が可能となり、翌年以降に利益が出ても課税額から差し引けます。個人事業主は3年間(青色申告の場合)なので、株式会社の方がより節税になります。
役員報酬
株式会社を設立し、会社から役員報酬として支払われる「給与所得」への所得税の課税になると65万〜220万円の「給与所得控除」が適用されます。個人事業主は「事業所得」に課税され、65万円の「青色申告特別控除」の適用が可能なので、役員報酬の形で受け取った方がより節税になります。
退職金
会社設立をした場合、5年以上勤務した役員に退職金を支払えばその支給額から「退所所得」控除を差し引いた半分のみへの課税になり、更に他の所得と分離して課税されるので「累進課税率」を抑えることができます。
保険
株式会社が加入している保険商品によっては一部を損金として算入し、利益を繰り延べすることができるので、ほとんどの場合経費として認められない個人事業主で加入する保険より節税になります。
経費算入
株式会社の場合、出張の日当や法人契約とした家賃を損金として算入して経費にすることができるので節税になります。
個人と法人が分けられる
株式会社は法人格を持ち、個人と別人格のため事業継承をしなければならなくなった場合も手続きが滞ってしまうという事態を避けることができます。
事業継承しやすい
代表取締役選定による決議(又は株主総会の決議)のみで社長交代が可能で、登記変更など各種申請・届け出をすれば手続きは完了です。
個人資産が差し押さえを受けない
株式会社の場合、銀行口座が個人名義ではないので凍結されることがありません。
株式会社設立のデメリット
株式会社設立にメリットがある反面、規模が大きくなる分「コスト」「手間」が増えてくるというデメリットがあります。
コストがかかる
設立費用
個人事業主は「個人事業の開業・廃業等届出書」を届け出れば無料で開業できますが、株式会社設立には約25万円がかかります。本店の移転、役員の変更時にも登記が必要となり、登録免許税がかかります。
法人税の納付
個人事業に法人住民税は課税されませんが、株式会社の場合、赤字でも年間約7万円の法人住民税の均等割の納税が必要です。
社会保険の加入義務
株式会社の場合、役員が一人でも社会保険に強制加入となります。
事務負担が増える
会計業務が複雑
株式会社の場合、個人事業主に比べて会計業務がより複雑で手間が掛かります。法人では従業員がおらず代表取締役社長一人でも給与計算とそれに関係する所得税や各種保険の源泉徴収分の納付なども発生します。事務負担だけでなく、納税までの相談等税理士に依頼する場合は依頼料も掛かります。
公告義務がある
株式会社には決算公告が義務付けられており、貸借対照表を「官報」「日刊新聞紙」「ホームページ」のいずれかでの公開作業が必要となります。
会社のお金を自由に使うことができない
社長個人と法人は全くの別人格なので、個人事業主の場合と違って社長といえども会社のお金を勝手に引き出して自由に使うことはできません。使う必要がある場合も会社法に則った手続きと利息の発生などに対応しなければなりません。
株式会社設立の為の検討ポイントは?
個人事業主と株式会社設立の場合の違いはイメージ出来たでしょうか。メリットやデメリットだけにとらわれることなく、あなたの目指す事業経営の姿にどちらがよりフィットするのか、慎重に見極めて行く事が大切です。以下の3つのポイントから改めて検討してみてください。
個人でできる仕事かどうか
これから展開していこうとしている事業は、あなた個人で行っていける範囲に限定されているものでしょうか。もし近い将来、仕事に関するノウハウやスキルソースが不足していると判断される場合は、業務委託をしたり人を雇って仕事を補うタイミングが必ずやってきます。その時にどちらが有利になるのかを検討してみましょう。
個人資金でできる仕事かどうか
事業の立ち上げに必要な設備、場所、事業を立ち上げてから発生する各種仕入れに掛かる予算は、手持ちの資金の範囲内に収まりそうでしょうか。個人事業主でも融資を受けたり、助成金・補助金の活用をする事は可能ですが、事業経営の継続にもお金は掛かります。融資を受けやすかったり必要資金を自分以外の株主から調達する事ができる法人の場合の資金計画も、一度は検討してみましょう。
将来拡大を目指していくのか
あなたが将来、事業の拡大を目指したいと計画しているなら、「株式会社設立のメリット」で説明した通り、従業員の確保、法人間の取引などで不利になったりしないよう、株式会社の設立をして社会的信用度を高める事を検討してみましょう。人員確保には求人広告費も掛かり、増員すればするほど給与だけでなく、事業所・経費・保険料の増大も見込まれます。また、事業ドメインを増やしたり事業規模そのものの拡大にはより多くの資金調達が必要で、株式会社の場合の方が選択肢も広まり、よりダイナミックな展開をして行きやすくなることでしょう。
まとめ
個人事業主でいくのかどうか、改めて検討することはできたでしょうか。株式会社のメリットとデメリットを、あなたが思い描く事業展開に照らし合わせてみて、納得できる選択ができるといいですね!株式会社設立や、その後の手続き、納税などに関してわからないことがあったら是非専門家を頼ってみてください。