労務管理とは?会社設立後に必要な手続きや日常的な管理内容を確認しよう
会社設立にはさまざまな手続きが必要ですが、設立後も税金や社会保険、雇用関係といった手続きが待っています。また、日常の業務のなかでも、労務管理に関わる多くの事務作業があるので忘れずに行う必要があります。
今回は、労務管理とは何か、また労務管理の具体的な内容や注意点について解説します。
労務管理とは
労務管理とは、会社で働く人の労働時間や福利厚生、賃金といった労働条件について管理することを指します。
労務管理の目的
労務管理最大の目的は、社員が働きやすい、能力を発揮しやすい環境を整えることです。職場の環境を適切に整え、社員の高いパフォーマンスを引き出せるようをサポートする「労務管理」は企業が発展していく上でとても重要な業務と言えます。
労務管理に必要なスキルは
労務管理は誰でもおこなえる訳ではなく、給与計算の方法から、労働法規についての正しい知識や技術を一通り身に着けている必要があります。労務管理の際は、コンプライアンスを重視し、社会からの信頼を損なわないよう、正しく業務にあたることが重要です。
労務管理に必要なスキルの例としては、社会保険労務士や労務管理士などが挙げられます。
会社設立後に必要な労務関係の手続き
会社設立後には、労務管理に関するさまざまな手続きが必要となります。期限が決まっているものもありますので、設立後すぐに手続きが踏めるよう司法書士など専門家のアドバイスなどを受けながら準備を進めましょう。
社会保険の加入手続き
まず必要なのは社会保険への加入です。社会保険は必ず加入が必要な「強制保険」です。社員がいない社長だけの会社、いわゆる「1人法人」の場合でも、社会保険の加入は必須です。
設立した会社の管轄である年金事務所で、手続きを行いましょう。
労働保険の加入
従業員を雇用したら、労働保険に加入する手続きをおこないます。労働保険のなかには、労災保険と雇用保険の2種類があります。1人法人の場合は強制ではありませんが、従業員を雇ったら労働保険の加入は必須ですので忘れないようにしましょう。
管轄する労働基準監督署、ハローワークで手続きを行ないます。
労災保険
仕事中や通勤中の病気やケガを補償してくれるのが労災保険です。労災保険は雇用形態がどうであれ、全ての人が対象となります。アルバイトだから、日雇いだからといって適用されないわけではありませんので手続きをしっかりと行う必要があります。
雇用保険
労働者が職を失った場合に必要な給付をおこなうのが、雇用保険です。週20時間以上の労働時間で、かつ31日以上の雇用見込みがある人を対象としており、全ての従業員の加入が必須ではありません。また雇用保険は原則、個人事業主、会社の役員の加入はできないとされています。
従業員を雇用したら
会社を設立し、従業員を雇ったら保険の加入以外にもやるべきことはあります。
労働条件通知書を作成する
働く人との雇用契約を結ぶときに交付する書類を、労働条件通知書といいます。労働条件通知書の作成、交付は労働基準法で規定されいます。書き方に決まりはありませんので、自分がよいと思う見栄え作成してかまいません。ただし、以下のように記載が必須の項目がいくつかありますので、漏れのないようにしてください。
- 労働契約の期間
- 就業場所上
- 業務内容
- 始業・終業時刻と勤務時間
- 休憩時間
- 休日・休暇
- 賃金の計算方法・締日支払日
- 解雇や退職に関する内容 など
労働条件通知書のテンプレートは、ネット上にも無料のものがたくさんありますので参考にしたり、士業の専門家にアドバイスをもらいながら作成したりするのがおすすめです。
また、作成だけでなく労働者に明示しなければならない事にも注意が必要です。今までの「紙」ベースでの交付に加え、労働者の同意が必要ですが、PDFファイルの添付やメールでの交付等、「電子化」での対応も可能となっています。
就業規則もしっかり定めておこう
会社と働く人との間の信頼関係の為に、社内ルールを明確にした、就業規則を定めておきましょう。さまざまな決まりを就業規則に記載しておくことで「言った、言わない」というトラブルを避けることができます。たとえトラブルが発生しても、就業規則に従って対処すればよいので、労働者との面倒事も最小限に抑えられます。
日々の具体的な労務管理
会社設立時に必要な手続きを終えたら、日々の業務のなかでも労務管理をおこなっていきます。具体的には以下のような内容を管理していくので覚えておきましょう。
勤怠管理
まず必要なのが従業員の就業状況を把握することです。誰がどのくらいの時間働いたか、残業は何時間か、有休を使ったかどうかなど、日々細かく管理をします。残業代の未払いや労働時間の超過による過労死といった問題をなくしていく為にも、勤怠管理の重要性が高まっています。
労働時間の管理にはタイムカードや勤怠管理システムなどを導入する会社も多くなっています。
給与・福利厚生の計算
労働時間に基づいて給与の計算をしたり、社会保険料や国に収める税金など控除項目のの計算をするのも労務管理の一環です。正社員やパート社員、アルバイトなど、雇用形態によって契約ルールが異なりますが、正しく管理をすることで社内はもちろん、社外からの信頼も損なわないようにする必要があります。
また、社会保険料の企業負担である法定福利費の他に法定外福利費の計算も労務管理に含まれます。交通費、住宅手当、育児支援、慶弔金の支出など企業によって、内容は様々ですが労働力の確保と定着、及び従業員の生産性の向上が目的です。
退職、休職等諸々の手続き
採用時はもちろんですが、退職時も社会保険の資格喪失手続き等退職にまつわる諸々の手続きも行ないます。また、社員の結婚や出産に伴う、産休、育児休暇、扶養家族が増えた場合の手続き、他にも傷病によって休職する場合の傷病手当等の確認や手続き等、従業員1人ひとりのライフイベントに沿って必要な公的手続きをすることも忘れてはいけません。
安全衛生管理
安全衛生管理とは、労災対策や従業員の健康を守るうえでのストレス対策などの事で、パワハラやセクハラ対策等も含まれます。従業員の心身共に安全と健康を守るための職場管理や推進も労務管理の基礎となる重要な役割です。
労使関係管理
労働組合などと会社との関係を労使関係といいますが、社内を超え、労働組合との関係について管理をするのも、労務管理です。労働組合から信頼してもらえるような会社を意識した労務管理で、安定した労使関係を保てるよう尽力します。
労務管理を行う際の注意点
労務管理にはさまざまな内容があることがわかりましたが、最後に労務管理をする際の注意点を見てみましょう。
コンプライアンスを果たす
会社が社会的な信頼を獲得するためには、コンプライアンスを果たす(法令遵守)ことを意識した労務管理をおこないましょう。また、労務管理をおこなう立場の人間として、会社で働く人に対してコンプライアンスの周知をすることも大切な仕事の1つです。
立場の主張をしない
労務管理をおこなっている立場の人は、従業員に対してどこか優位になったような気持ちになることあるかもしれません。しかし、そういった立場の主張をするのは円滑な会社経営にとっては不要なもので、よりよい労務管理をおこなう障壁となります。
自身の立場について主張しない、優位であると過信しないことも忘れてはいけません。
社員を厳しく縛りすぎない
コンプライアンスを果たすことはもちろん大切ですが、そういったことばかりに気持ちが向いてしまい、従業員の気持ちなどを汲み取れない、厳しすぎる接し方で従業員を縛りすぎてしまうと、従業員が不信感を持ったり仕事のモチベーションが上がらなくなったりしてしまいます。
決めごとを守るのはもちろん大切ですが、社員を厳しく縛りすぎては逆効果ですので注意しましょう。
まとめ
労務管理は会社設立、会社経営に欠かせない重要な役割です。働き方改革に加えコロナ過などにより、フレックスタイム制度、在宅勤務など多様な勤務体系が生まれてきています。さらに人口の減少により女性や高齢者、外国人等々様々な人たちの職場参加も増えてきています。従来の日本型の雇用システムに当てはまらないことも多く、また多様な労務トラブルも増えてきているという現実もあります。
従業員や社会のニーズに対応した「労務管理」をあらためて構築していくことが、働く人のモチベーションをあげる事はもちろんのこと、社会からの信頼を得ることにも繋がり、会社の存続、発展に大きく影響していくことと思います。
専門家の知識なども借りながら、変化する社会に対応した正しい方法で労務管理をおこなっていきましょう。